助成金をもらえる会社・もらえない会社|受給を左右する「3つの基本条件」と落とし穴
「うちのような数人の小さな会社でも、助成金は使えるのだろうか」
「前期は赤字決算だったが、申請しても落とされるのではないか」
助成金について、このような不安や疑問を持つ経営者は少なくありません。
しかし、結論から言えば、会社の規模が小さいことや、決算が赤字であることは、助成金をもらえない理由にはなりません。公的支援の中でも、助成金は非常に幅広い企業や事業主に門戸が開かれている制度です。
一方で、どれほど売上規模の大きな会社であっても、「ある基本条件」を一つでも欠いていれば、1円の助成金も受給できないという厳格な境界線が存在します。
受給できる会社と、申請すらできない会社。その境界線はどこにあるのか、実務上の落とし穴とともに整理します。
1. もらえるかどうかの最大の境目:「雇用保険の被保険者」がいるか
助成金を活用できるかどうかを分ける最大の分岐点は、「雇用保険の被保険者となる従業員が1人でもいるかどうか」です。
なぜなら、厚生労働省が扱う助成金の財源は、国税ではなく、事業主が国に納めている「雇用保険料(雇用保険二事業)」によって賄われているからです。保険料を納めている事業主と、そこに勤務する労働者のための制度であるため、雇用保険の適用事業所であることが大前提になります。
この仕組み上、以下のような事業所は助成金の対象にはなりません。
- 役員だけで構成され、従業員を一人も雇っていない会社
- 外部の業務委託(フリーランス)や外注先だけで業務を回している会社
- 同居の親族のみで経営している事業所
一方で、常時雇用する従業員で、1週間の所定労働時間が20時間を超える方がいれば、正社員に限らず、パートやアルバイトであっても雇用保険の加入対象となります。そうした従業員が1人でもいれば、助成金を受給できる土台が整っていることになります。
2. 「赤字」や「法人形態」は受給に関係ない
もう一つ、多くの経営者が誤解しがちなのが、「業績や法人形態による制限」です。
経済産業省などが所管する補助金では、財務状況や事業の収益性が審査されることもありますが、「助成金は答えのある制度」でも触れたように、助成金は事業計画の優劣を競うものではありません。
そのため、決算が赤字であっても、助成金の受給にはまったく影響しません。(むしろ、売上が低下している企業の場合、要件や助成率が優遇される制度もあります)企業の収益状況に関わらず、定められた取組を正しく実施しさえすれば受給できるのが、助成金の特徴です。
さらに、対象となる法人形態も極めて広範囲です。
- 株式会社や合同会社
- 個人事業主
- 医療法人や社会福祉法人
- NPO法人や一般社団法人
- 農業法人
補助金では対象外になりがちな業種や法人であっても、「雇用保険の被保険者を雇用している事業所」であれば、業種や法人形態を問わず活用できる制度が数多く用意されています。
3. 対象企業でも「もらえない会社」になってしまう3大落とし穴
「従業員を雇用しているし、業種も問題ない」。そう思っていても、いざ申請しようとした段階で「対象外」と判定されてしまう会社があります。
その原因の多くは、以下の実務上の3つの落とし穴にあります。
① 雇用保険の加入漏れ
週20時間以上勤務しているスタッフがいるにもかかわらず、「パートだから」「本人が希望しないから」といった理由で雇用保険に加入させていないケースです。これは法律上の義務違反であり、加入漏れがある状態では助成金を受給できません。
② 労働関係法令の違反や書類の不備
助成金は国の公的支援制度です。そのため、労働関係法令に違反している企業は、国の支援対象とはなりません。残業代の未払いや違法な長時間労働、36協定の未届出、最低賃金法違反などがある事業所は、助成金の受給資格を失います。また、法律で義務付けられている法定三帳簿(出勤簿・賃金台帳・労働者名簿)が適切に整備・保管されていない場合も、審査において重大な不備とみなされ、不支給となる原因になります。
③ 申請前後の「会社都合の解雇」
助成金の多くは、雇用の維持・安定を目的としています。そのため、制度ごとに定められた一定期間(申請前の6ヶ月〜支給決定までなど)に、会社都合による従業員の解雇(退職勧奨などを含む)を行っている場合、受給できなくなる制度が数多くあります。すべての制度に当てはまるわけではありませんが、雇用を前提とした助成金においては、見落としやすい代表的な不支給要件の一つです。
4. 特別な裏技はいらない:足元の労務管理を整えることが受給への道
助成金を受給するために、特別なコネや裏技、難しいプレゼンテーションは一切必要ありません。
求められているのは、「法律を守って適正に人を雇用し、労働環境を整える」という、事業主としての誠実な足元づくりです。
- 週20時間以上働く従業員を、漏れなく雇用保険に加入させる
- 雇用契約書を交わし、労働時間を客観的に記録する
- 就業規則や賃金規程を定め、給与を適正に支払う
こうした労務管理の基本を整えることこそが、助成金をスムーズに受給するための最も確実な準備になります。「国はなぜ助成金を出すのか」でも解説した通り、助成金はそうした職場環境づくりに踏み出した企業に贈られる、国からの正当な支援金なのです。
まとめ:規模や業績ではなく、誠実に人を雇っているか
「自分のような規模では相手にされないのではないか」。公的支援に対して、そんな引け目を感じる必要はありません。
助成金が求めているのは、きらびやかな事業計画や莫大な利益ではなく、「従業員の雇用と生活を大切に守ろうとしているか」という事業主の姿勢です。
雇用保険に正しく加入し、法律に沿って社内を整える。その当たり前の基準をクリアしているすべての事業所に、助成金を受け取る正当な権利があります。自社の足元を見つめ直し、整えるところから、助成金の活用は始まります。
助成金は、やり直しがききません。申請の前に、制度の流れと要件を知っておくこと。それが、取りこぼしと失敗を防ぐ最も確かな備えになります。