国はなぜ助成金を出すのか?「法改正の先取り」という視点で考える助成金
助成金を考えるとき、多くの経営者は「どの制度が使えるのか」から調べ始めます。
その前に、一つだけ確認しておきたい問いがあります。国は、なぜ助成金を出すのでしょうか。
この答えを知っているかどうかで、助成金との付き合い方は大きく変わります。
1. 助成金は、国が望む職場づくりへの後押し
助成金は、主に厚生労働省が所管する制度です。雇用の維持・安定化や、働きやすい職場環境の整備に取り組む事業主に対して、原則として定額の資金援助を行います。
ここに、国の意図が表れています。国には「こうなってほしい」と考える職場の姿があり、その方向へ踏み出した事業主を後押しするために、助成金を設けているのです。
言い換えれば、助成金は「国が定める雇用や労働環境改善の方針に、いち早く賛同する事業主への支援制度」です。
財源や、補助金との違いについては、「助成金と補助金の違い」で整理しています。
2. 助成金は「法改正の先取り」を支援する制度
雇用に関する制度が中心の助成金には、もう一つの性格があります。
将来、法改正によって取り組まなければならなくなる内容を、先んじて実施する事業主に対する支援という性格です。
同じ取組でも、「制度があるうちに」取り組む場合と、「義務化されてから」取り組む場合とでは、経営者の立場が変わります。違いを並べると、次のようになります。
制度があるうちに取り組む場合と、義務化されてから取り組む場合
3. 義務化されれば、助成金はなくなる
助成金の対象となる取組の中には、現時点では「努力義務」にとどまるものがあります。助成金は、そうした取組を義務へ移していく前の、先行段階の制度という性格を持っています。
そして、いったん義務になれば、その取組は「すべての企業が行って当然のこと」になります。当然のこととなった取組に対して、国が支援を行う理由はなくなります。そのため、助成金制度としても、なくなっていきます。
同じ取組でも、義務化の前に取り組めば支援を受けられ、義務化の後に取り組めば自社負担のみで行うことになります。取組の内容は変わらないのに、費用の面で差が生まれるのです。
いずれ取り組まなければならなくなるのなら、制度があるうちに取り組むほうが、経営にとって大きく得になります。しかも助成金には、取組にかかる費用を受給額が上回る制度もあります。雇用の維持・安定化という経営課題に取り組みながら、プラスの資金を生み出せる。この点を理解した経営者にとって、使わない理由のない公的制度です。
4. 先に動く会社には、お金以外の優位も生まれる
制度があるうちに取り組む意味は、受給額だけではありません。
まだ義務になっていない段階では、同じ取組に着手できていない企業も多くあります。その中で先に職場環境を整える会社は、従業員や求職者から見て、他社との違いがはっきりします。求人への応募の増加、離職率の低下、意欲の向上による生産性の改善といった効果も、期待できます。
義務になってしまえば、同じ取組も「他社と同じ水準」にすぎません。先に動いた会社だけが得られる優位は、制度があるうちに限られるのです。
なお、取り組むときは、従業員への伝え方にも気を配りたいところです。「会社が助成金をもらおうとしている」と受け取られては、取組の価値が伝わりません。「皆さんが働きやすい環境づくりに力を入れている」というメッセージとして伝えることが大切です。
まとめ:国の向かう方向を知る経営者が、半歩先を歩く
「もっと早く知っていれば」。制度を後から知って、そう感じた経験はないでしょうか。
ここまで見てきたように、助成金は、国が向かう方向へ先に歩き出した事業主への支援です。その取組はいずれ義務となり、助成金としての支援はなくなっていきます。大切なのは、制度の数を覚えることではなく、国がどこへ向かおうとしているのかを知り、支援があるうちに動くことでした。
その方向を読み、半歩先に動ける経営者は、制度に振り回される側ではなく、制度を自分の経営に取り込む側に立っています。
「使える制度」探しは、2番目でいい。助成金という制度そのものを知ること。その順序が、活用の幅を広げ、失敗を防ぐことにつながります。